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美味しさの秘密

盛岡市ピアノ教室「ミチコピアノアカデミー」

2021年4月28日のブログです。

お料理というものは、日常的な調理の基本技術があり、ある程度作り慣れている人であれば、よほどおかしなことをしない限り、そこそこ丁寧に心を込めて作れば「普通に美味しい」ぐらいにはなるものだと思います。

演奏も同じだと思います。ある程度の技術がある人が、正しく譜面を読み、真摯に取り組んだ結果の演奏は、「よかったよ」と言いたくなるものに、まずなると思います。たくさんの練習をしたことは一目瞭然で、さらに、その人らしさ、というものも加味して聴き手は受け取るわけですから、意地悪にでも聴かないかぎり、どんな演奏にも良さが見えるのは当然のことです。

…話をお料理に戻します。

わたしが作った肉じゃがを「美味しい!かなり美味しいよ!」と、感じてくれた人がいたとして、日本料理のプロが作ったものを口にした途端、こう思うでしょう。「わ!ぜんぜん違う!」と。

どう違うの?と、聞かれたら、「うーん、とにかく舌ざわりとか、口に入れた瞬間違う。味の深み?いや、出汁が違うのかも・・材料の質かなあ?あ、それと、後味の余韻みたいなものも、あるんだよね・・・プロってすごいね」

みたいに、なることでしょう。

このように、なんだか違うぞ!という感想を持ち、その理由を想像するところまでは受け手としてなんとかできますが、実際にその味を再現できるためには、その腕を持った人のもとで、何年も修行し、得られるか得られないか、というところでしょう。

ピアノの演奏も似たようなことがいえるなあと思います。

楽譜をレシピとみなせば、書いてある通りに弾きなさい、で、誰一人同じ演奏にならないのもうなずけます。レシピは「大さじ1杯」など、まだ具体的ですが、「f」などは「強くという意味です」と、答えられたところで、正直、音楽の味付けとしては、そんな単純なことではないですから。この曲、この場面においてのfは、さて、どうしたものか・・となってくると、もはや強い弱いよりも「質感」の問題になってきます。そう考えると、一つの音の質感に着目し、様々な響きを会得しようと具体的に学んでいくことには、大きな大きな意味があると感じます。そう学んでいった方が、最終的には早いのではと思います。

世の中の、まだ小さいのに難しい曲をたくさん弾けるような能力の高い方が、素晴らしい質感を手に入れる学びをきちんとされて育っていかれることを心から願い、楽しみにしたいと思います。

・・・単純明快に、辞書に載っている言葉で記号の意味を学んでいくのもひとつの音楽の基礎として当然必要ですが、実際に演奏として曲の中に使われるときは、それがその曲にしか作用しない「暗号化」する、ぐらいにとらえて、「質感」重視で取り組んでいくと、「主婦の料理がシェフの料理に」変身するような演奏も、決して不可能ではない、ということを、現在の学びを通して実感しています。

「もっとfで」とか、メロディーを揺らすこととか、表面のなにかを頑張っていろいろやっても、それは、ケーキのイチゴをどこに乗せるか、クリームの絞り方の模様はどうするとか、「多少の一瞬の見栄え」の違いで、口にした時の味わいには作用しない、と、最近思います。(もちろん、品評会においては、見栄えも重要な要素だとは思います)

このことを音楽に置き換えると、やるべきことがおのずと見えてきます。

ほんとうに、ありがたいことです。演奏を楽しいとますます思えてきたことに、心から感謝しています。